悠々と急ぐために・・・

“Festina Lente”

「医療観光」考、もしくはあるべき日中関係、あるべき「日本の医」について

前略 久し振りのブログ更新。いくらなんでも1年に1回はヤバいよなあとか思いつつ以下、例のとおり自由に記します――

 

 爆買い現象の波及効果でしょうか、最近また中国から医療や健診でのツアー問合せが多くなってきました。そこで某大学病院付属の健診センターに旧知のご担当者を訪問し、久し振りにこのテーマで興味深くお話を伺いました。

話を伺いながら、医療観光のみならず、日中関係や日本の医の問題等、いろいろ考えさせられたので、今回重い筆を取った次第です。

 

先ずこのテーマ、つまり「医療観光」、あるいは海外からの患者受入れという課題を突きつめて考えると、行きつく先は必ず、日本の医療のよくも悪くも独自性や長年来の問題に帰結するものと改めて感じました。

お上があれだけ大々的に旗揚げして(民主党~安部政権)、予算も付けて、「日本の医」を売りにした医療ツーリズムを標榜しても、一向にインバウンドの大きな流れ、つまりビジネスとしての市場形成につながらない。

お上にしたところでもちろん、省庁間で温度差があるのは当然(経産+国交は大賛成、厚労+裏でつながる日医は大反対)にしても、それ以前に「医療は果たしてサービス(ビジネス)か?」という古典的な課題があります。

TPPにおける聖域設定の問題もたぶん同類の根拠から出ているもので、医療のほか農業や教育を一般の産業と同じ扱いとして同列視してしまうことで、日本の国土や生命が脅かされる危険性はないか?という課題設定になります。「今やそんなの当たり前で全て産業にすべきだ」派と、「いやいや、断じて産業であってはならぬ」派の抗争という図です。

一時は猫も杓子もグローバル化を叫んでいたのが、ピケティ先生の論にあるような小さな政府=ローカル志向が最近は目立つように感じます。(行きすぎたローカル主義がトランプ・極右現象では。)

 話を戻して、今回いろいろ考えたことというのは、上記事情を背景として、「自分がこのテーマ(海外患者受入れ)に取り組んでいるモチベーションは果たしてなんだろう?」ということです。

会社を立ち上げて、医者や看護師の人材事業を始めた頃、営業先の病院で「日本の医療、大丈夫かしら?」としばしば感じたことがあります。

病院による組織、カラーの違いにもよりますが、こういう病院にはかかりたくないなと思わされるような病院がなぜ普通に続けられるか?(都心でも郊外でも、けっこう少なくない。)

医師は今後余っていくはずと言われ続けながら、医師不足あるいは過労死問題はやはりなくならず(不足ではなくて「偏在」だとしても)、看護師以下人材は慢性的不足状態が一向に改善しないのはなぜか?

それよりなにより、国家の赤字予算で運営しているがごとき国民皆保険制度をどうするか?よく皆保険制度はいつまでもつか?みたいなことが論じられますが、毎年膨大な赤字国債を刷ってなんとかかとか運営しているわけですから、私から見ればとっくに破たんしているとしか思えません。

以上から、守るものは守るという前提で、ある程度は医の活性化(イノベーション)を図っていかないと危ないのではないか?「日本式医療」を日本の財産として、技術・人材・制度も含めて、売りにすべきは売り、改めるべきは改めるという姿勢でやっていかないと明るい医の未来はないのではないか?

――とまあ、そうした日本の医療の課題はもちろんあるとしても、最も強いモチベーションは中国の医療事情にあります。

日本は普通に皆保険制度(+高額医療保険制度)があるから、たとえば風邪をひいたくらいでも皆なにも考えずに病院に行くし(これも大きな問題です)、がんが見つかってもやはり普通に治療なり手術なりの処置を施しますが、お隣の中国では少し前まで皆保険制度がなかった。(正確には、古き良き共産党時代はあったのが、改革開放政策以降は独立採算の勧めでなくなりました。鄧小平の負の遺産です。)

ゆえに、いわゆる中国の農村部での話ですが、農民ががんと診断されて自殺するという事件が起こったりします。一般の農民にとって100万円もする治療費というのはいかに酷な現実か・・・始めてこんなニュースに触れた際に、単純にこれはマズイと思った。なぜこんなことが起こるのか? 

ちなみに、中国での皆保険制度は胡錦濤さんの時にようやっと制度化され(オバマ・ケアのごとく)、しかし諸問題もあってあまり普及しなかったのが(これもオバマ・ケアのごとく)、習近平さんになってようやく国の隅々まで行きわたるようになったと聞いています。(ただし要検証。)

しかしこれのどこが「社会主義」なんだと日本人ならみな思いますね。

 さておき、中国というのは好むと好まざると、すぐお隣の国です。しかも今後グローバルでの比重が増していき、清の最大勢力図みたいになるかどうかはさておき、日本は正面からあい対していく必要がある。米国や欧州は早くからそう感じているから少しずつ外交政策をシフトしているけど(AIIBへの加盟がいい例です)、日本は潜在的に中国蔑視があるせいだかなんだか、いまだに中国破たん論が大好きです。(特にメディアの罪が大きい。)

 余談ばかり並べてきましたが、要するにあるべき日中関係はなにか?ということです。

中国人の爆買い現象の背景にあるのは、もちろん正規商品を総じて安く、安心して買えるからというモノの力も大きいですが、それよりなにより、実際に日本に来て、日本流のサービスに直に触れて、日本の社会・習慣・システムの中で生活して始めて、自分たちの社会のとギャップの大きさ、日本がいかに安全で住みやすく、みな真面目で騙されこともなく、ラッシュアワーの混雑する中でも整然と通勤する姿等々を目にして、みなで思わずSNS(微信の威力がすごい!)でもって写真や動画やコメントを発信し、拡散したがためです。 

そんな日本の社会と比較するに、自分たちの社会はなぜあんなに住みにくくなったしまったのか・・・と彼らが本気で考えたとしたら、あるべき日中関係への一歩でしょう。是非謙虚に日本を学んでほしい。これは中国語で言う「学日本」です。(その逆もまた真なり、ですが長くなるので今日は触れません。)

そして学ぶべき項目のひとつとして「日本の医」があるはずです。多くの医師や看護師たちは自身の職務に対して誇りと時に犠牲の精神をもって患者と向き合っている。しかも設備を含めた日本の医療技術は世界でも最高レベルです。

医療人材の不足と現場の疲弊、混合診療の問題等々、確かに免れません。が、海外から患者を受入れるということはすなわち、海外から医療人材を受け入れる道も今以上に開きやすくなるはずです。さらに海外からの患者には適切なコストを反映させた料金体系を適用すべきでしょう。

日本の医はもっと開かれて然るべきと思いますが、いかがでしょうか?