悠々と急ぐために・・・

“Festina Lente”

日中関係考(2) 「時代と人と運命と」

微力ながら応援している舞台女優の神田さち子さんの中国残留婦人の一人芝居「帰ってきたおばあさん」について、中国の映画監督(兼、北京電影学院教授)、王乃真(ワン・ナイジャン)先生がドキュメンタリー映画を撮影しているお話は、かねてから神田さんより伺っていました。この度、撮影の一環で残留婦人へのインタビュー他、取材のため来日中の王先生と先日ようやくお会いすることができ、文革時代のお話から現在進行中の撮影まで、話題の尽きないあっという間の2時間をご一緒させていただきました。(以下、文責は全て栃原)

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話題が尽きないというのは誇張でなくてそのとおりですから、ここでは印象に残ったことのみに絞ります。先ず先生がものごころついた頃というのが正に文化大革命の始まりの年(1966年)で、先生はちょうど10才。その年になんと、大学の先生だった母親が目の前で惨殺された話。(しばし絶句、、、)そこから長い下放が始まり、1978年にやっと大学が再開して(この間中国の全ての大学が休学状態だったが、思えば教師=知識階級がみな叩かれるからそういうことになりますね)、晴れて北京電影学院に入学した際には、実に下は16才、上は38才までが一度に入学、復学したそうです。(一体何人の学生が大学に押し寄せたのだろう?それに教師はどれくらい生き残ったのか?)あの張芸謀(ジャン・イーモウ)は王先生より5才年長だったが、この年に一緒に入学したとのこと(年齢が抵触したようですけど)。彼も当然のことながら文革の被害者でした。

それから話を端折って、神田さんとの北京での出会いと残留婦人の方々との交流。現在進行中の撮影の課題。「とにかく時間が大事かつ喫緊。すでに90代の方もいる残留婦人が存命のうちに作品を仕上げないといけないから。編集に最低3カ月はかかるから、来年夏のリリースから逆算すると来年の2月には撮影を終わらせないと。今300時間分撮り終えたが、まだ3分の2くらいかしら。そしてなにより、資金をどう集めるか・・・」云々。

先生によれば、「生まれながらにして悪という人はいない。ただ三つの真実があるのみ:特殊的時代、特殊的人群、特別的命運ーーつまり、特別な時代に生まれ、そこには特別な人々がいて彼らと同時代を生き、つまりは特別な運命を与えられた、ただそれだけの話だ」となります。

文革にしろ、日中戦争にしろ、よほど権力のある人でない限りは不可抗力であり、下々の民にとってはひたすら流されるままでしょう。そこに跋扈する紅衛兵や旧帝国陸軍の軍人にしたところで、時代の落し子にすぎない。そして、そういう時代に生まれ落ちてきたことも、単にそれがその人の運命だということにすぎない。

日中関係がかくある中、中国人である先生がどうして、日本人=加害者ではなく圧倒的な被害者目線で書かれた残留婦人の物語を追いかけ、そこに拘るのか、その理由もここにあります。

「人は時代に翻弄され続けてきた。昔も今も。だからどんな時代にあっても、史実や現実を正確に見つめ、汲み取り、受け入れなければいけない。特に今の時代は。」

今回王先生にお会いするにあたり、一番お聞きしたかった疑問もすっきり晴れた気がしました。

帰り際、今回北京から先生に同伴した秘書役で北京電影学院研究生の小林千恵さんに「来年2月までに撮影は終わりますか?」とこっそり聞くと、「いやあ、このペースでは無理でしょうねえ」とあっさり言われてしまいました。終戦から70周年を迎える2015年という年と、なにより残留婦人の方々へのオマージュ性を考慮すると、絶対に間に合ってほしいーーそう願わずにはいられないと思いつつ、新宿のとある喫茶店を後にしました。

 

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王乃真先生(中央)、神田さち子さん(先生の右)、秘書役の小林千恵さん(最右)と。

 

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上は昨年の六本木公演のチラシです。

今年2014年は、横浜の「神奈川県立青少年センターホール」にて、11月22日(土)午後3時開演。